修理工房 時計の豆知識

水は時計の大敵!

水は精密機器である腕時計にとって1番の大敵!
防水時計であっても、使用状況に製品状態によっては、内部に水入りする場合があります。


腕時計の防水性について、正しい知識を身につけて、使用されることをおすすめします。

ぜひ、本記事をご参考になさってください。

防水時計の種類

腕時計の防水性の目安は気圧防水と表され、大きく分けると上記の5種類のタイプがあります。
一般的にドレスウォッチは防水性が低く、スポーツウォッチは防水性が高い傾向にあります。

非防水

名の通り防水機能が備わっていない時計です。
普段使いの中でも雨や汗による湿気などにも気を付けなければいけません。
最近の時計は非防水モデルは少なくなっていますが、アンティークの時計では多数あります。
また、アンティークでも防水性能が付いているモデルもありますが、経年劣化によりその機能を果たさない個体が多いため、基本的にアンティーク時計は非防水と認識しておいて良いでしょう。
非防水の時計はとても繊細なので、多量の汗に注意する、雨の日には装着しない、手を洗う時には外すなど、ご配慮いただきながらご使用ください。

3気圧防水(日常生活用防水)

3気圧防水は静止状態にある場合、水深30mまでの水圧に耐えることが可能な防水機能を備えた腕時計です。
第1種防水時計とも呼ばれており、価格帯を問わずいろいろな時計に用いられております。
最低限の防水性能を兼ね備えているため、雨や手を洗った際の水しぶき程度であれば問題はありません。
ただし、食器を洗いながら使用をしたり、プールに着用して入るなど、時計をそのまま水につけることはできません。
3気圧防水は腕時計の防水性能として一般的なもので、"WATER RESISTANT"または"W.R."と表示されていることもあります。
日常生活用防水とも呼ばれるので、こちらも合わせて覚えておくとよいでしょう。

5気圧防水(日常生活用強化防水)

5気圧防水は静止状態にある場合、水深50mまでの水圧に耐えることが可能な防水機能を備えた腕時計です。
第2種防水時計とも呼ばれおり、食器洗いやお風呂掃除、さらに農業や漁業などの水仕事にも耐えうる防水性能を持っております。
ただ、水深50mまでの水圧に耐えられるとは言っても、時計を水につけることはできないので注意が必要です。
また勢いよく出した蛇口やシャワーの水圧がかかると、水入りする場合があります。
なお、5気圧防水は3気圧防水と同じように、"WATER RESISTANT 5BAR" "WATER 5BAR RESISTANT" "W.R.5BAR"と表示されていることもあります。

10気圧防水(日常生活用強化防水)

10気圧防水は日常生活用強化防水もしくは第2種防水時計とも呼ばれており、水仕事はもちろん、水上スキーやヨットといったマリンスポーツにも対応しております。
川やプールの水しぶきに耐えられるくらいの防水機能を兼ね備えております。
ただし水泳で使用した場合や、蛇口の水が直接かかるなど、水圧がかかる環境だと、水入りする場合があります。
また、海水につけてしまった場合は真水で洗浄しないとパッキンが劣化したり、ケースが錆びたりすることがあるので注意が必要です。
お風呂や温泉での使用もゴムパッキンの早期劣化に繋がるので、こちらも避けましょう。

潜水用防水

潜水用防水は100mから200mの防水機能を搭載した腕時計です。
第1種潜水時計(空気潜水用防水)と呼ばれており、空気ボンベを使用する潜水に対応しております。
表示されている水深までの耐圧性と長時間の水中使用に耐える防水性を備えており、潜水時間や減圧時間を測定するのに必要な回転ベゼルなどの装置を備えているのが特徴です。
浅海で潜水(スキューバダイビング等)に使用されますが、飽和潜水用に使用することはできません。
潜水用防水の機能をもつ時計はダイバーズウォッチと呼ばれ、ダイバーから絶大な支持を集めております。
ダイバーでなくともスポーティーなデザインに魅かれる方も多いので、実用性の高さも相まって非常に人気の高い時計です。

飽和潜水用防水

防水機能を備えた時計の中で最も高い防水性能を持つ時計が飽和潜水用防水です。
200mから1000m以上の防水性能を持つ時計は第2種潜水時計(飽和潜水用防水)と呼ばれ、深海へのダイビングにも耐えることが可能です。
圧倒的な防水性能を有しているだけでなく、逆回転防止ベゼルやヘリウムエスケープバルブ等のダイビングで役立つ機能を併せ持つことが多い時計です。
飽和潜水用防水の時計の中で有名なのは、ロレックス シードゥエラー、オメガ シーマスターなどがあります。
日本が世界に誇る一流ブランド "セイコー" からも様々なダイバーズウォッチがラインナップされており、人気商品になっております。
ダイビングが趣味でなければオーバースペックにはなりますが、その圧倒的な機能性こそが飽和潜水用防水時計の魅力でもあります。

ダイバーズウォッチの定義について

ダイバーズウォッチ=防水性が高い時計のことと思われている方が多いですが、実は防水性が高いだけではダイバーズウォッチと名乗ることはできません。
ダイバーズウォッチはダイバーの命に関わる極めて重要なアイテムであるため、JIS(日本工業規格)・ISO(国際標準化機構規格)によって厳格な条件が定められております。
条件を満たしていない時計はダイバーズウォッチとは認めらないため、現代においてダイバーズウォッチと呼ばれている時計は非常に高いスペックをもつことが約束されております。

JIS、ISOによる条件は非常に細かいため、ここでは省略しますが、基本定義は下記の2つとなっております。
・少なくとも100mの潜水に耐えること、更にその1.25倍の水圧に耐える耐圧性を備えること
・潜水時間を管理する機構を有すること

潜水時間を管理する機構は主に"逆回転防止ベゼル"が該当します。
それ以外では視認性や耐衝撃性、耐塩水性、耐磁性といった項目まで要求スペックが定められているので、これらの要求を全てパスしたモデルだけがダイバーズウォッチの称号を獲得できます。

ヘリウムエスケープバルブについて

ヘリウムエスケープバルブとは、名称通り時計に入り込んだヘリウムを時計の外に逃がす仕組みのことを言います。
この機構は高い防水性を誇るダイバーズウォッチに搭載されており、ハイスペックの証として時計ファンから絶大な支持を集めております。
深水100mを超える深海に潜る際、飽和潜水という手段がとられております。
飽和潜水を行うためには酸素とヘリウムの混合気体が使用されておりますが、ヘリウムはとても小さい分子ですので作業中や減圧チャンバーに入っているときに隙間から時計の内部に入り込んでしまいます。
高圧状態で入り込んでいるため、この時のヘリウムはとても高圧になっております。
この状態で浮上による気圧変化が起こると時計が破裂してしまう可能性があります。
そこで深く潜る際には入り込んだヘリウムを外に逃がす仕組み"ヘリウムエスケープバルブ"が作られました。
ロレックスがシードゥエラーに採用したことからその歴史は始まり、現在ではオメガやセイコーなどのハイスペックモデルにも用いられるようになっております。

潜水が可能か否か

時計において"気圧"という表記は防水時計に使われ、"m"という表記は潜水時計に使われる表記です。
そのため耐えうる条件が異なります。
ややこしく感じると思いますが、要するに防水時計は潜水が不可能、潜水時計は潜水が可能です。

例えば10気圧防水は腕時計をゆっくり100m地点まで沈め、そのときにかかる10気圧の圧力に耐えられるという意味をもちますが、これはあくまでも圧力に対する話であって100mまで潜ることは想定しておりませんので潜水は不可能です。
10気圧防水はあくまで圧力に対する数値であり、どれくらい潜れるかの数値ではありません。
ちなみに、深さが1m程度しかない競泳用プールで10気圧防水機能を持つ時計が壊れることがありますが、これは泳ぐ際に勢いよく時計を水に叩きつけた圧力が10気圧以上掛かってしまうからで、深さの問題ではありません。

10気圧防水と100m防水の違い

時計の防水性能には"m(メートル)"と"気圧"の2種類の表記がありますが、これは似て非なるものです。
気圧は水深10mにつき1気圧掛かります。
よって100m潜ると腕時計には10気圧が掛かるということになります。
単純に100m防水=10気圧防水のように感じると思います。
しかし、100m防水と10気圧防水とでは防水性能が大きく異なります。

防水時計の取り扱いで気をつけたいこと

例え高い防水性能を持つ時計であっても、時計が精密機械であることには変わりありません。
誤った取り扱いをした時には故障に繋がります。
ここでは修理事例を参考に、防水時計を取り扱う上で気をつけていきたいことを紹介します。

防水時計を過信しないで!浸水してしまう事例とは?

防水時計を故障させてしまう1番の要因は防水性能を過信しすぎてしまうことです。
「100m防水だから時計を水洗いしても大丈夫」
「ダイバーモデルだからプールに飛び込んでも問題ない」
このように考える方は少なくありませんが、防水時計だからといって何m潜らなければ大丈夫というわけではありません。
水圧が仕様を超えると水は中に入ってきてしまうこと、またリューズをきちんと閉めて使用しないと本来の防水機能は発揮されないので、注意が必要です。

例えば水洗いをして時計に曇りが生じてしまった話。
この場合は故障の原因は蛇口から出る水の勢いにあります。
100m防水の時計であれば100mまで潜った時に生じる水圧に耐えることができますが、蛇口から勢いよく水を出した時の水圧は100mまで潜った時の水圧より強いです。
水洗いしただけなのにと思っていても、知らず知らずのうちに時計の仕様を超える圧力をかけてしまっています。
曇りが発生するのは機械内部に水が進入した証拠なので、この場合は時計の修理が必要となります。
また、お風呂での使用により時計を故障させてしまうケースも多いです。
これまで紹介してきた防水機能は、あくまで水に対してのことです。
時計の防水性能は水を基準にしているため、水の温度によって防水性能を損なうこともあります。

時計をお湯に入れてしまうと、水の侵入を防ぐために内部にあるゴムパッキンが熱により変形してしまい、故障の原因になります。
石鹸やシャンプーなどの洗剤も防水時計の天敵です。
ゴムパッキンに洗剤などが付着すると化学変化が起きて、ゴムの弾力がなくなることがあります。
そうなると水が時計内部に侵入するきっかけになってしまいます。
取扱説明書を読むと、洗剤等(石鹸・シャンプーなど)のご使用をお避けください、と書いてあることが多いです。
時計をつけたままお風呂に入らないとしても、石鹸での手洗いや洗剤での食器洗いの際にも気をつけたほうが良いでしょう。

時計を丁寧に扱うことが大切

時計を良い状態で長持ちさせるためには、時計内部に水分を侵入させないことがとにかく大事になってきます。
そのためには時計を丁寧に扱うことが求められます。

下記は故障の原因の例ですが、どれも知らず知らずのうちに時計を雑に扱ってしまっています。

・リューズの閉め忘れ
・風防を破損したまま使用
・ずっとゴムパッキンを交換をしていない


リューズを閉め忘れた場合、防水性能はほぼゼロです。
閉め忘れたまま雨に出歩くことで、ちょっとした水滴から機械内部に水が進入することも珍しくありません。
また、ゴムパッキンの劣化により防水性能が落ちている場合も水によるトラブルが増加します。
例え100m防水の時計であってもゴムパッキンが劣化していると、水洗いをしているだけで水蒸気によってパーツが錆びたりします。
防水時計はタフな設計で作られていますが、紛れもない繊細な精密機械です。
時計に慣れてくると日々の取り扱いが雑になったり、メンテナンスに出す頻度が下がったりもしますが、今一度壊れやすいモノであることを思い出し、大切に扱うようにしましょう。

故障してしまった場合はオーバーホールが必要

時計が持つ防水性能を超える負荷をかけた場合、時計が故障してしまう可能性は高いです。
もし精度がおかしい、ガラスがずっと曇っているといった不具合があれば、時計修理店でオーバーホールを行う必要があります。
オーバーホールは時計を分解洗浄し、ゴムパッキンや歯車等の消耗品パーツの交換を行う作業です。
その工程は非常に繊細で、高度な技術が必要になります。
費用も決して安いものではなく、シンプルな3針モデルであっても1万円以上は、費用がかかってきます。
そのため、どうしても安い工房にオーバーホールを依頼したくなりますが、防水性能が高ければ高いほど慎重に業者は選ばなくてはなりません。
オーバーホールでは必ず防水性のチェックが行われますが、安かろう悪かろうの業者においてはテストが簡易的に行われてしまうことがあります。
また、設備が整っていない業者の場合、修理後に再故障する可能性が高まります。
腕時計の防水性を維持するためには定期的なオーバーホールと、その際のお店選びがとても重要です。
口コミに優れる、一級時計技能士が在籍しているといった情報をよく調べて、ご依頼ください。

最後に

防水という文字だけで、この時計は水に濡れても大丈夫だと思わないでください。
防水時計には様々な種類があります。
腕時計を購入の際は、自分の生活スタイルに合う防水機能を備えた時計なのかをしっかり確認して購入しましょう。

また、ご愛用されている時計がどれくらいの防水性なのかをしっかり把握していると修理に出すときも安心です。時計を趣味にするのであれば、防水性能に限らず、機能に関する基礎知識を身に着けることをオススメいたします。

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